暗い水面と暗い山並み、そこに暗くなる空が溶け込む。
バスに揺られて2時間。
ほとんどの時間は草原の中を快走していたように思う。
遠くの山にかかる雲は、東京で見る雲よりも軽々しく見えた。
↑こんな景色がずっと続く。
なんの変哲も無いバスだが、座席のポケットには、絵本が入っていた。
日本語版と英語版がある。
タイトルは『ふんだりけったりクマ神さま』。
アイヌの伝承物語である。
他にすることもないので、絵本を手に取り、読んでみる。
アイヌ人が自然をどう捉えていたかがとても分かりやすく物語にされている。
あとがきによれば、作者は学生時代に書いたものだった。
バスと絵本、新しい組み合わせだが、この絵本を通じてアイヌ文化を知ってよりこれからの旅路が楽しみになった。
阿寒町に近づくと、学校帰りの高校生がバスに乗ってくる。
こんな場所で育ったら、どんなに豊かな感性を手にするのだろうか。
人が育つ場所は、その人に大きな影響を与えるのだと思う。
東京で育った人間からすると、東京以外で育った人はやっぱりどこか違う感性を持っているような気がする。
それから間も無く、阿寒湖温泉に到着した。
↑バスセンターの1階は、セイコーマート。
バスセンターに到着して、宿泊するのもバスセンター。楽だ。
すぐにチェックインをする。バスセンタ宿泊部は、バス待合所の隣の建物だ。
建物の中に入ると、廊下が奥まで続き、廊下に沿って部屋が並んでいる。
↑寮のようなホテルなのか、ホテルのような寮なのか。
なんとも味気のないホテルだが、部屋はもっと味気ない。
ただ、寝泊まりするだけなら十分快適だ。
↑部屋の様子。6畳くらいのスペースに布団が2組、机とテレビとストーブ。
とりあえずスマホを充電しながら、これからすることを考える。
宿泊部には、温泉が付いているが、どうせなら周辺のホテルの日帰り温泉に入りたい。
が、調べ始めるも温泉はほとんど時間外。
日帰り温泉を受け入れている時間が極端に限定的なのだ。
「入らす気ないだろ!」
てことで、宿泊部の温泉に入ることにした。
まだ誰もいないので貸し切り状態。悪くない。
一風呂あびて、夜ご飯を食べるためまちをあるく。
まっすぐお店に向かおうとしたが、せっかくなので阿寒湖を拝む。
阿寒湖温泉は、阿寒湖に沿って曲線を描く通りに面してホテルやお店が並ぶ。
この通りの1本裏が阿寒湖の畔である。
ホテルの脇を通って裏側へ行くと、映った景色がこれである。
水面に波はなく、夕暮れに静まり返った阿寒湖。
時事刻々と弱まっていく光の中で、それに反して存在感を高めていく。
暗い水面と暗い山並み、そこに暗くなる空が溶け込む。
綺麗過ぎて、長い時間湖を眺めていた。
阿寒湖の畔には散歩道があるので、歩いてみる。
↑散歩道の灯りは、アイヌの伝統的な模様のかたちをしている。
こんな綺麗なのに、観光客は皆ホテルのガラス箱の中に入っている。
唯一ぼく以外に湖畔にいたのは、中国人のおじさん2人。大音量でべちゃくちゃ喋っていた。
散歩道の終点には豪勢なホテルが。
↑豪勢なホテルのロビーには、石像。
↑大通りを歩くと、お土産やさんがたくさん並んでいる。
↑木彫りのお土産がたくさんある。
そうしてぶらぶら歩いていると、アイヌコタンに行き着く。
アイヌコタンは、アイヌ文化のテーマパークのようなものだろうか。アイヌ文化の展示や、演舞の披露なども行っている。
↑アイヌコタンの入り口の門。
↑中は商店街のような構成。広い道の両側にお店が並ぶ。
↑作り物感がすごい。
↑こちらはアイヌの住居か。ただ、昨日の台風の影響なのか、立ち入り禁止。
アイヌ文化の展示が無料だったので、少し見学してみた。アイヌ独特の模様が印象的だった。
と、夕食目的のはずが、阿寒湖に誘われてずいぶん遠いところまで来た。
アイヌコタンからまた元の場所へ戻って、目的地のお店へ。
「炉ばた 浜っ子」
ほっけの焼き物を食べて、大満足。
↑炉ばた浜っ子
お腹も満たし、阿寒湖もみたので宿へ帰る。
寝る前に、明日以降の予定を立てる。
明日の宿を取っていないことを思い出す。
明日の予定は、朝からバスで移動して摩周湖を見て、夜に屈斜路湖に着く。
なかなか決まらなかった予定が決まり、布団に入る。
少し早いくらいだが、明日は早起きして阿寒湖をもう一度みてから摩周湖へ行く。
北海道旅行は、まだまだ半分。
長い夏休み、最高だなんて思っていた。
まさか、翌日、いや、数時間後にあんなことが起こるなんて、この時のぼくはまだしらない。